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2014年7月14日 (月)

真下の階に住

その瞬間、隣にいた中年の夫婦は膝を倒して、泣き崩れてしまった。

同時に私は何が起こったのかを察した。

気づけば駐車場に葬列ができていて、棺桶は黒塗りのワゴンカーへと運ばれいく。

私は階段をあがりながら、その一連を目で追っていた。

2階の廊下ではヤンキーがタバコをふかしらがら、その様子を見続けていた。

私が「こんばんは。何があったんですか?」と問いかけると、ヤンキーは「さぁ?」とだけ冷たく答えた。

ヤンキーに並列して、その様子をじろじろ眺めるのも不謹慎なので、私はその場を後にし部屋へと直行した。

 

 

私は畳の上で横になってみた。

そして畳に片耳をあててみた。

いつも聞こえていたはず足音や洗濯機の回る音、水まわりの音など、真下の階に住む学生の生活音をやはり確認することができなかった。

私の真下の部屋の学生が、なにかしらの理由で亡くなったのだ。

私は静かに目を閉じ、ご冥福を祈った。

 

 

その日以降、それまでアパート全体に漂っていた線香の匂いが、嘘のように消え去った。

 

いくら冬とはいえ、普通のアパートの一室で遺体を二ヶ月も安置しているはずもないよな。あの匂いは死の予兆だったのかもしれない、そもそも線香の匂いとは、その死を連想させる匂いを打ち消すために作られたのかもしれないな。いや線香は悪霊退治にも使われると聞くし、それはないか。

とか勝手にスピリチュアルな推測をしてみたが、考えるだけ不毛で、何故線香の匂いが二ヶ月間漂っていたのか、何故出棺した翌日からその匂いが消えたのか、それらに因果関係があったのかは、結局わからなかった。

 

駐輪場にはその学生が使っていたと思われる自転車が寂しく残っていた。

 

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